プロジェクトを成功に導くためには、まずはプロジェクトの成果物や作業範囲(スコープ)を定める必要があります。
スコープの定義を行い、生産物が基準の品質に達しているかを確認しながらプロジェクト管理を行うことをスコープマネジメントといいます。スコープを正確に、且つ過不足なく定義したうえでプロジェクトマネジメントを行うことで、プロジェクトを成功に導くことができます。
本記事では、スコープマネジメントについての目的・プロセス・ポイントなどを解説いたします。プロジェクト管理に携わる方は、ぜひ本記事を参考に取り組まれてみてください。
スコープマネジメントとは
スコープマネジメントとは、プロジェクトにおいて「何を・どこまでやるか」という成果物や作業範囲(スコープ)を定めて、それを達成できるようにマネジメントをすることです。プロジェクトの成功を定義したうえで必要な要素を過不足なく洗い出し、その達成を目指します。
スコープマネジメントには、プロジェクトを成功させるために必要な成果物と、各フェーズで生産される成果物との間に品質のずれがないかを確認する「スコープ検収」が含まれます。また、プロジェクトの進捗状況が想定よりも遅れている場合に行う「スコープコントロール」も、スコープマネジメントの一環として行われます。
プロダクトスコープとプロジェクトスコープ
スコープマネジメントは、プロジェクトマネジメントの世界標準ガイドである「PMBOK」のなかで定義されている領域のひとつです。
PMBOKでは、スコープマネジメントは以下の2種類に分類されています。
- プロダクトスコープ
- プロジェクトスコープ
プロダクトスコープでは、プロジェクトにおける成果物(何を作るのか)を定義します。成果物とは、製品・サービス・機能などを意味します。
一方でプロジェクトスコープでは、プロジェクトで「何をどこまでやるか」という作業を定義します。成果物を作るために必要な作業(タスク)を洗い出します。
▼「PMBOKとは何か」具体的な定義内容や活用するメリットについては、下記記事を参考にしてください
スコープマネジメントの目的
スコープマネジメントは、ステークホルダー(ex:顧客)の求める成果物を把握し、期間内に高品質で遂行することを目的に取り組まれます。
プロジェクトを成功させるためには、成功に必要な要素を漏れや重複がないように絞り込むことが重要です。絞り込んだ要素を、プロジェクトの過程で管理・調整・変更していくことがスコープマネジメントには求められます。
スコープマネジメントのプロセス
スコープマネジメントは、以下のプロセスで取り組みます。
- 計画を立てる
- 要求事項を収集する
- スコープの定義づけをする
- タスクを分解しWBSを作成する
- スコープの妥当性を確認する
- スコープを管理・調整する
スコープマネジメントのプロセスについて、フェーズごとに解説します。
1.計画を立てる
最初に、スコープを定義して文書化し、検証やマネジメントの方針について計画します。
「スコープマネジメントをどのように取り組むのか」について、プロジェクト憲章やプロジェクトマネジメント計画書をもとに計画を立てるフェーズです。
スコープマネジメントの方針が決定したら、以下2つの文書を作成します。
- スコープマネジメント計画書
- 要求事項マネジメント計画書
スコープマネジメント計画書は、スコープの定義や文章化、検証方法について方針をまとめたものです。
一方で、要求事項マネジメント計画書は、クライアントからの要求事項について整理をしたり、メンバーの具体的な行動方針を記載したりするものです。
2.要求事項を収集する
次に、クライアントからの要求を要求事項マネジメント計画書に沿って収集します。
要求事項の収集には、プロジェクト憲章やステークホルダー登録簿を参考にします。
プロジェクト憲章とは、プロジェクトの目的・前提条件・リスク・予算・ゴールなどをまとめたものです。一方で、ステークホルダー登録簿はステークホルダーのリストで、役割や影響度などがまとめられています。
要求事項を収集できたら、要求事項トレーサビリティ・マトリックスを作成します。要求事項トレーサビリティ・マトリックスとは、クライアントからの要求事項をマッピングしたものです。「要求事項がクリアできているか」「成果物に落とし込めているか」をトレース(追跡)することに活用します。
3.スコープを定義する
収集した要求事項をもとに、より詳細にスコープを定義します。
プロジェクト・スコープ記述書を作成し、顧客や自社の関係部署とともに具体化していくフェーズです。
※プロジェクト・スコープ記述書とは、プロジェクトの作業範囲や成果物、前提や制約条件について記載されたものです
4.タスクを分解し、WBSを作成する
スコープの達成に必要なタスクを洗い出し、WBS(作業分解構成図)を作成するフェーズです。定義したスコープやクライアントからの要求事項をもとに、タスクを洗い出して構造図に記載します。
WBSを作成することで、プロジェクトにおけるタスクの抜け漏れを防ぎやすくなり、スコープを達成する確率を高めることができます。
▼WBSとは何か、詳しいメリットや作成手順については下記記事を参考にしてください
また、作成したWBSをもとに工数(タスクごとの所要時間・人数)の見積もりを行います。
▼工数見積の方法やポイントについては下記記事を参考にしてください
5.スコープの妥当性を確認する
「定義したスコープが妥当なものであるか」をクライアントや関係者に確認してもらいます。プロジェクトを成功させるためには、ステークホルダーによるスコープの確認と合意を得ることが重要です。
また、プロジェクトを進める過程で「各工程で生産される成果物(要素成果物)に妥当性があるか」を確認する必要もあるでしょう。妥当性の確認は、以下のプロセスで行います。
- 品質管理の工程で要素成果物をチェック
- 確認済みの要素成果物をクライアントや関係者がチェック
- 上記工程の終了後、要素成果物は「受け入れ済み要素成果物」となる
6.スコープを管理・調整する
プロジェクトを推進するなかでは、スコープを達成できるようにプロジェクトスコープとプロダクトスコープを管理します。
要素成果物がスコープに定めるベースラインに達していなかったり、当初の予定が変更になったりした場合には、柔軟な調整が必要になります。
「要素成果物とスコープに乖離がないか」を常に差異分析を行い、確認することが重要です。
スコープマネジメントのポイント
スコープマネジメントを行うにあたり、重視するべきポイントは以下の通りです。
- プロジェクト成功に必要なものだけに絞る
- ステークホルダー(関係者)の合意を得る
- 常に最新の情報を可視化する
プロジェクトの成功に必要なものだけに絞る
クライアントの要求を全て達成しようとすると、プロジェクトが失敗する可能性があります。
プロジェクトにおける「成功」の定義を定めて、その達成に必要なものだけにスコープを絞るのがポイントです。
ステークホルダー(関係者)の合意を得る
スコープマネジメントでは、定義したスコープに対してステークホルダーからの合意を得る必要があります。
たとえば経営者・開発部署・クライアント・スポンサーなどのうち、いずれかひとつでも合意が得られていないと、プロジェクトが途中で頓挫してしまう可能性があります。また、こちら側では「プロジェクトが終了した」という認識でも、ステークホルダーからは追加の修正や作業を求められてしまう可能性があるでしょう。
ステークホルダーと協議のうえ、プロジェクトの開始前にスコープについての合意を得ることが重要です。
常に最新の情報を可視化する
プロジェクトにおいて、計画やスケジュールの変更はつきものです。常に最新の情報をプロジェクト管理に反映させておき、スコープの変更が発生した際には随時調整をします。
事前に計画書を作り込み、現状と照らし合わせてチェックできるような体制づくりが重要です。
また、最新の情報をプロジェクトメンバー全員に共有しておくことで、情報伝達の不足により発生するミスやトラブルを防ぐことにつながります。
まとめ
スコープマネジメントとは、プロジェクトの成功に必要な要素(スコープ)を定義して、その達成を目指して管理をすることです。
PMBOKの知識エリアで定義されている領域のひとつで、プロダクトスコープとプロジェクトスコープの2つに分類されます。
スコープマネジメントを行う際には、スコープの定義やクライアントから収集した要求事項をもとにタスクを洗い出します。また「定義したスコープが妥当かどうか」を事前にステークホルダーの間で合意を得ることが何よりも重要になります。
「何を、どこまでやるか」という成果物や作業範囲(スコープ)を明確にしたうえで、ステークホルダーから合意を得て、プロジェクトを進めましょう。
▼プロジェクトマネジメントについては、下記記事もあわせて参考にしてください