「やらないこと」を決めると、仕事の質が上がる!

朝、仕事を始めるとき「何から片づけようかな」と、ToDoリストを確認する人は多いのではないでしょうか。私もその一人です。完了したものをチェックしたり線で消したりすると、達成感を得られて気分がいいですよね。

これは、ToDoリストにあるものを「すべて終わらせる」ということを前提とした仕事の仕方です。

そうではなくて、リストアップしたものを「やること」と「やらないこと」に分けて、「やらない」と決めたことは切り捨てるという発想があることを知りました。しかも、それで仕事の効率や質が上がるというのです。

「やらないこと」を決める仕事術とはどんなものなのか、調べてみました。

「やらないこと」を決めるとは?

先日「3カ月」の使い方で人生は変わるという本を読んでいたとき、「『やらないこと』を決める」という見出しにひきつけられました。著者は、クラウド会計ソフトfreeeを生み出した佐々木大輔氏。freee株式会社の代表取締役CEOとして350人以上の社員を束ね、対外的にも精力的に活動している佐々木氏には、毎日1,000通以上メールが届くそうです。それだけ聞いても、どれほど忙しい人か分かります。

佐々木氏は向こう3カ月の行動に優先順位をつける際、この3カ月はやらないこと、人に任せること、このミーティングには出ない、このジャンルには手をつけないといったように、まず「やらないこと」を先に決めているそうです。

「やらないこと」を基準にフィルタリングしていくと、かなりの量の「今はやらなくてもいいこと」がそぎ落とされる。すると、「すぐできること、かつ絶対にやらなきゃいけないこと」がおのずとあぶり出されるので、そういう優先順位の高いものをスケジュールに組み込んでいく。

では、「やらないこと」を決めるためにはどうしたらよいのか。その答えを探るために、インバスケット・コンサルタント(※)の鳥原隆志氏の著書やらないことを決めなさいという本を読んでみました。

「インバスケット」とは、優先順位の判断力を高める思考法。

「優先順位設定」で、100の仕事を浅くより10の仕事を集中的に

「リストアップしたからには、すべて終わらせたい」と、多くの人が思うのではないでしょうか。とはいえ1日が24時間であることは変えられないので、「時間が足りなくて、すべてが中途半端」な状況から抜け出すには、「やること」を減らすか、誰かに頼むしかありません。

「やらないこと」を決めるという発想では、100の仕事に浅く取り組むよりも、10の仕事を深く集中的に行うことが、仕事の質を高めると考えます。「やらないこと」を決める際に重要となるのが、「優先順位設定」です。リストアップした仕事をすべてやろうと考えず、まずは「やること」と「やらないこと」にグループ分けします。

自分の基準を明確にする

優先順位設定をする際に不可欠なのが、「自分の基準」を明確にすることです。これがあれば、大事なことが自ずと見えてくるそうです。やらないことを決めなさいの中に、そのことを教えてくれるエピソードが紹介されていました。

この本の著者である鳥原氏が、かつて流通業界で働いていたときの話です。
当時勤めていた会社がスポンサーをしている球団が優勝し、スーパーで優勝セールを行いました。その初日、予想を超える多くの客で大混乱。鳥原氏に、以下の業務が一気に押し寄せました。

  • 初めて来店する客も多かったので、「卵はどこ?」など売り場に関する質問の対応に追われる
  • 商品がどんどんなくなり、補充しなくてはいけない
  • 店長から「買い物かごが不足しているから、駐車場に回収に行ってほしい」と言われる

このとき鳥原氏は、いちばん大事なことは、

  • お客様の信頼?
  • 売上?
  • お客様の安全?

と、自分に問いかけたそうです。

その結果、「多少の売上を犠牲にしても、お客様の安全を第一に考えるべし」と決断し、部下に台車を使った商品補充を中止させて、従業員を売り場での案内に徹するように指示しました。つまり「自分の基準」に基づいて、優先すべきことを決めたのです。

このエピソードは、実は大事なことは一部で、たくさんのやることが本当に大事なことを見えなくしていることを教えてくれます。

一つの基準に絞る

また、「一つの基準に絞って比較する」のが、優先順位設定の鉄則とのことです。

例えば同僚とランチに行ってメニューを選ぶとき、「カレー大好きだよな……。でも和定食はカロリーが低いし、日替わりは安い……。うーん、決められない」という状態では、比較していることにはなりません。「嗜好」「カロリー」「価格」などの、どの基準で優先順位をつけるか決めたうえで比較すれば、自ずと答えは決まるでしょう。

「自分軸」を設定すれば「自分の基準」が明確になる

優先順位設定には「短期的な優先順位設定」と「長期的な優先順位設定」があります。

「短期的な優先順位設定」は、納期や期限など、時間軸に基づいて優先順位を設定することです。ポイントは、その時間内に処理しないことによって発生するリスクを考えて優先順位を決めること。

「長期的な優先順位設定」は、「自分軸」に基づいて設定します。自分軸とは、自分が仕事をする目的や、大事だと思うことです。それは「やりがい」「報酬」「家族」「安心」「挑戦」など、人によってさまざま。つまり自分軸には、その人の考え方や生き方が反映されます。

自分軸を設定すれば、自分の基準も自ずとはっきりしてくるということです。

何かを手放すと、新しいものが舞い込んでくる?!

「1つ新しいことをやると決めたら、1つやめる」ことも、大事だそうです。

新しいスーツを1着購入したら、クローゼットの中にある1着を減らすなどして常にクローゼットにゆとりをもたせるように、1日24時間という決められた時間の中に、パンパンに仕事を詰め込まないようにします。余裕があるからこそ、新しいことにチャレンジしたり、新しい情報を吸収したりできるということです。

そういえば1年前、ライターの友人が「栄養学を専門ジャンルにして、それ以外のジャンルを引き受けないことにしたら、監修やカウンセラーとしての仕事も依頼されるようになったよ」と話していました。もちろん、日頃の努力があってこそのことですが、思い切った決断がステップアップにつながることもあるのです。

新年に向けて「やること」ではなく「やらないこと」を決めて、新たなスタートを迎えてみるのもいいかもしれませんね。

 

参考
『「3か月」の使い方で人生は変わる』佐々木大輔,日本実業出版社,2018.

『やらないことを決めなさい』鳥原隆志,マガジンハウス,2015.

 

TimeCrowdに戻る