単身赴任者は、ある意味「ワークライフバランス」という言葉と縁遠いところにいるのではないでしょうか。
私の夫は転勤族で、現在自宅から250km離れた場所に単身赴任しています。「自分だけの時間を確保できる」という点では、家族と離れて暮らすことはメリットといえるかもしれません。しかし、実際に家族と離れて暮らすこと、とくに子育て世代が配偶者や子どもと離れて暮らす不安や不満は、本人にとっても家族にとっても大きいと思います。
政府によって勧められている「働き方改革」。転勤など家族がバラバラにならざるを得ない働き方の見直しは今後進んでいくのでしょうか。
住むところを自由に選べない転勤族
わが家も、長子が10歳になるまで夫の転勤による引っ越しをくり返していました。それまで暮らしたことのない土地での生活は楽しくもありましたが、それは私が出産後は外に働きに出ていなかったからだと思います。もし働いていたら、子どもが病気のときなど頼れる場もなくかなり大変だったことでしょう。
子どもが成長するにつれ悩みの種となったのは「このままずっとついて行くべきかどうか」ということ。結局、「高校受験の際などにドタバタ決断しなくてはならない状況」を避けたかったので、長子が小学校3年生になる年に合わせて持ち家購入を決断しました。それから2年も経たないうちに夫の転勤が決まり、そこから二重生活になっています。
「家を持つ」ということは、以降の転勤では夫が単身赴任することになります。頭では分かっていたものの、現実となると家族がバラバラになることに落ち込み、慣れるのにかなりの時間がかかりました。
夫も、今はそれまで暮らしたことのない土地での生活を1人でしています。「普段自分が暮らさない家」のローンを払いながら、月に一度帰ってくる以外は1人で家事をして、毎日家族に会えずに暮らしています。
単身赴任から数年経過すると帰省手当もなくなるため、今後、会う頻度は少なくなるかもしれません。家族なのに、バラバラに暮らさなければならない。夫の会社の場合、そのぶん収入が増えるなど、暮らしが楽になる要素があるわけでもないので、経済的な負担も大きくなります。「嫌ならずっと一緒について行けばいいのに」とか、「子どもも転校ばかりでも順応性が養えていいじゃないか」とかいう意見もあるかと思いますが、そうでしょうか。
現場で人材が必要なら現地で雇用を増やし、人材育成やモチベーションアップのためなら転居を伴わないジョブローテーションをすれば、そのほうが企業にとってもいいのではないのでしょうか。もちろん希望者は転勤できるシステムがあっていいと思います。
しかし、わざわざ家族を切り離すという制度を当たり前に残しているこの国では、ワークライフバランスの実現なんてまだまだ遠いのではないかと思うのです。
働き方改革で転勤という制度は見直しされるのか
2017年3月、厚生労働省が「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」という資料を作成、公表しました。企業に対して転勤への配慮を提案する内容でしたが、少しずつ転勤という制度そのものの見直しが必要だという風潮になればいいと思います。
リモートワークやフレックスタイム制なども十分可能になっている環境のなかで、転勤という制度を活かし続けることは、経済発展においても少子化対策においても悪影響であると個人的には考えます。どちらも、ワークライフバランスがうまくとれていないと、好転するとはとても思えないのです。
「いまは通信技術の発達でビデオ通話なども簡単にできるからいいのでは」という人もいますが、やはり実際に一緒にいるのとはまったく違います。一緒に暮らしている家族でさえ、残業などで一緒にいる時間が少なくなることが多いのです。
なかには「転勤すれば出世する」とか、「そのぶん収入が大きくなる」など優遇される企業もあるようですが、現実はそんな企業ばかりではないでしょう。夫の会社のように、「家族帯同が基本なので、持ち家維持などの理由で単身赴任を選ぶ場合は4年目以降の手当は廃止」という企業も現実にあるのです。
転勤を断れる企業もあるようですが、断れば「会社の意向に沿えないので自主退職」または、「給与の大幅カット」となる企業も多いです。転勤をしてもプラスにはなりませんが、転勤を断ればマイナスにはなるのが一般的ではないでしょうか。
二重生活による負担は、予想以上に大きいです。毎週末帰ることができても、その分長距離移動のための肉体的・経済的負担は増えます。家族がバラバラになることで、家庭が崩壊し離婚する家庭もあるかもしれません。
度重なる転校によって、強くなる子どももいれば、ストレスによって心を病んでしまう子どももいるかもしれません。夫の転勤によって、妻が退職や転職をしなければならないなど、社会での活躍の場を狭められてしまうこともあります。
つまり、転勤という制度は、政府の取り組み「一億総活躍社会」の実現にも相反することになると思うのです。
働き方改革によって求められるもの
働き方改革では、労働時間の短縮や余暇の確保、同一労働同一賃金などさまざまな課題がありますが、その根底にあるのは「ワークライフバランスの適正化」だと思っています。労働に見合った収入を得て私生活も充実させる、そういう形でないと「働くということ」が、「ただ生活するため」だけになってしまうと思うのです。
転勤は、ワークライフバランスのライフの部分を大きく歪ませてしまう時代錯誤な制度であると個人的には考えています。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」この、日本の構造的課題を実現するためにも、働き方改革において転勤制度の見直しは必ずすべき大きな課題なのではないでしょうか。
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