「キャリアブレイク」というブランクの新しい捉え方

これを読んでいる人の中に、離職を経験したことがある人はどれくらいいるでしょうか?
特に女性の場合は結婚や出産を機に離職したという人も多いと思いますが、その後に復職や再就職をする上で気になるのがキャリアの「ブランク(空白期間)」です。

そこで今回は、キャリアのブランクが与える影響や、ブランクを肯定的に捉える「キャリアブレイク」という考え方についてお伝えします。

ブランクが不利になりがちな日本の就職市場

少子高齢化に伴い、働き手不足が深刻化している現在の日本。政府が推進する働き方改革の中でも、女性や高齢者の活躍による人手不足の解消に期待がかかっています。

しかし、女性の場合は結婚・出産・育児といったライフイベントによって離職を余儀なくされることも少なくありません。にもかかわらず、終身雇用制度が根強く残る日本では「離職=キャリアの中断」とみなされ、ブランクがあることで復職や再就職が不利になってしまうこともあります。

また、一度仕事を離れると「自分のスキルはもう通用しないのでは?」と不安に思う人も多いでしょう。
アデコが行った女性の再就職・復職に関する調査によると、ワーキングマザーの場合は「家事や育児と両立できるか」「職場の理解が得られるか」といった悩みを抱える人も多いようです。

このようにキャリアのブランクは復職や再就職を考える上で大きなハードルとなり、女性の活躍を妨げる一つの要素となっているのが現状です。共働き世帯が増えている昨今では、もちろん男性が同様の立場に置かれることもあり、誰にとっても無関係な話ではありません。

キャリアの中断=キャリアブレイクという考え方

「人生100年時代」といわれる今、同じ会社で一生働き続けるのはなかなか難しいことです。一つの会社で長く勤め上げることに重きを置く従来の日本的価値観は、変わるべき時に来ているのかもしれません。
さらに言えば、キャリアのブランクを一様にマイナス要素として捉える考え方こそが、多様な働き方を目指すこれからの社会への障壁となり得るのではないでしょうか。

元より欧米ではキャリアアップのために転職を図る人が多く、企業への所属意識の低さ、人材の流動性の高さという点から見ても、キャリアの中断に対する抵抗感やマイナスイメージは日本に比べてはるかに低いといえるでしょう。
キャリアを途切れさせないことよりもさまざまな経験やチャレンジが評価される傾向にあるため、キャリアの中断を肯定的に捉える「キャリアブレイク」という考え方も浸透しています。

休職をサポートする制度も多様にあり、中でもベルギーでは1985年から2001年まで実施された「キャリアブレイク制度」(2002年以降は「タイムクレジット制度」として再編)が先進的な職業キャリアの中断制度として注目を集めました。
実際にベルギーは経済協力開発機構(OECD)の調査でもワーク・ライフ・バランスが好ましい上位5カ国の1つに数えられており、こうした制度の存在もその結果に貢献していると考えられます。

再就職を後押しする「リカレント教育」

このような考え方は日本にも徐々に浸透し、前回の記事で紹介したサバティカル休暇やソニーのフレキシブルキャリア休職のように、学び直しなどを目的とした休職制度を取り入れる企業も増えてきました。

最近では社会人の学び直しにも関心が高まっており、「リカレント教育」と称して政府も積極的に推進する姿勢を見せています。2018年3月に行われた「第6回人生100年時代構想会議」の中でもリカレント教育の拡充が宣言され、人材採用の多様化について議論がなされました。

そして、リカレント教育は単なるスキルアップのためだけでなく、ブランクを経て復職や再就職を希望する人のためのサポートとしても注目が集まっているのです。政府が同年に発表したリカレント教育に関する資料の中でも、受講者の例として復職を志す女性が挙げられています。

受講者の特色 ~多様な学習目的~
・現在の職業に必要なスキル等を身に付けるため、自らの意思あるいは企業からの派遣でリカレント教育を必要とする受講者
・キャリアチェンジを目的として、必ずしも現在の職場に留まることを前提としていない受講者
・現在の仕事を支える広い視野や人的ネットワークの構築を目的とする受講者
・ライフイベント等により一旦離職していたものの、復職を目指している受講者

引用:文部科学省「リカレント教育の拡充に向けて」

受け入れ側となる大学などもリカレント教育に力を入れつつあり、日本女子大学では結婚や出産によって離職した女性の再就職を支援するプログラムを実施しています。
こうした新たなチャレンジを支援する制度が広く普及することによって、日本でもキャリアの中断やブランクに対する意識が変わっていくのかもしれません。

さいごに

キャリアにおけるブランクは「空白期間」とよく表現されますが、多くの人は離職中にも何かしらの経験を積んでおり、決してただの空白ではないはずです。
ビジネスに直結するような学び直しだけに限らず、結婚や出産、家事・育児で得た経験や価値観が新たな強みとなる可能性も十分にあります。

これからはキャリアの中断をブランク(空白)として負い目に感じるのではなく、長い社会人生活におけるブレイク(休憩)として肯定的に捉えてもいいのかもしれません。
そして、企業側にも離職中の多様な経験を積極的に評価する姿勢が求められるのではないでしょうか。

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