2023年3月期の決算から、人的資本の情報開示が義務化されます。
しかし「そもそも人的資本とは何か」「なぜ義務化されるのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、人的資本とは何かについて、義務化の背景や情報開示が必要な項目とあわせて解説いたします。
目次
人的資本の情報開示の義務化とは?
人的資本の情報開示について正しく対応するために、まずは基礎知識について理解しましょう。
人的資本の情報開示とは?
人的資本の情報開示とは、人的資本を企業活動に直接的に関わりがあると考え、その情報をステークホルダーに公開する取り組みのことです。
人的資本とは、人材の持つ能力を企業の重要な資本として捉える考え方を意味します。個人それぞれの技術・資格・能力などの「ヒト」に関わる幅広い領域を指す経済用語でもあります。
人的資本と人的資源の違いについて
人的資本と人的資源には、投資とコストのどちらと捉えるかという違いがあります。
人的資本は人材に対して費用をかけることで、その人が持つ技術や能力を伸ばして価値創造を行います。そのため、人的資本にかかる費用は、将来的な企業成長につながる「投資」といえるでしょう。
一方で人的資源は「ヒト」を企業の資源と捉えるため、使用すれば「コスト」して消費されます。企業の4大経営資源として知られるヒト・モノ・カネ・情報は限りがあるため、できるだけ効率的に少ない消費で回すことが好ましいです。
人的資本の情報開示の義務化はいつから?
人的資本の情報開示の義務化は、2023年度3月期の決算からスタートします。
人的資本の情報開示の義務化とは、企業の人的資本について開示が望ましいとされる項目の一部を有価証券報告書に記載し、ステークホルダーに公開することが義務となることを意味します。上場企業を始めとする有価証券報告書を発行する約4,000社の日本企業が、人的資本開示の義務化の対象です。
人的資本の情報開示が日本で義務化される背景
人的資本の情報開示が重要視され、日本で義務化されることになった背景について以下で解説します。
人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」
2018年2月に国際標準化機構(ISO)が、人的資本に関する情報開示のガイドラインとしてISO30414を発表しました。ISO30414とは、企業が人的資本に関する考察や行動を体系的に行えるようにサポートすることを目的に作成されたガイドラインです。人的資本の情報開示に対する世間的な注目が集まったきっかけであると言われています。
ESG投資への関心の高まり
投資家のESG投資への関心の高まりは、人的資本の開示の義務化に大きな影響を与えました。
ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉です。ESG投資では、企業の財務情報だけでなく、人的資本の情報などから企業の持続性を判断材料として投資を行います。特に「社会」に関する評価の部分で、投資家からの関心が高くなっていると考えられます。
「人材版伊藤レポート」の公表
2020年に「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。人材版伊藤レポート2.0とは、経済産業省が開催した「人的資本経営の実現に向けた検討会」の内容をまとめたものです。
人的資本の重要性・人的資本経営への変革を実践するためのアイデア・実践事例集などが提示されており、日本企業が人的資本を考えた経営を推進するうえで重要な指針となりました。
参考:「人材版伊藤レポート2.0」 (METI/経済産業省)
人的資本の開示が求められる項目
2022年8月に内閣官房から発表された「人的資本可視化指針」では、下記の6分野が例として挙げられています。
- 人材育成
- エンゲージメント
- 流動性
- ダイバーシティ
- 健康・安全
- コンプライアンス・労働慣行
人材育成の分野
人材育成の分野では、人材育成・キャリア形成・スキルアップなどの人材を育てるための取り組みの内容が含まれます。
人材育成の分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- リーダーシップ
- 育成
- スキル・経験
エンゲージメントの分野
エンゲージメントの分野には、従業員の企業理解や貢献意欲などの従業員エンゲージメントの内容が含まれます。
エンゲージメントの分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- エンゲージメント
流動性の分野
流動性の分野には、採用・人材の維持・後継者の準備などの内容が含まれます。
流動性の分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- 採用
- 人材維持
- サクセッション
ダイバーシティの分野
ダイバーシティの分野には、男女による差別や格差をなくすといった人材の多様性に関わる内容が含まれます。
ダイバーシティの分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- ダイバーシティ
- 被差別
- 育児休暇
健康・安全の分野
健康・安全の分野には、従業員の心身の健康や労働災害などの安全に関わる内容が含まれます。
健康・安全の分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- 精神的健康
- 身体的健康
- 安全
労働慣行およびコンプライアンスの分野
労働慣行およびコンプライアンスの分野には、従業員へのコンプライアンスや人権といった企業の社会的信用に関わる内容が含まれます。
労働慣行およびコンプライアンスの分野における人的資本の情報開示が望ましい項目は以下のとおりです。
- 労働慣行
- 児童労働・強制労働
- 賃金の公正性
- 福利厚生
- 組合との関係
- コンプライアンス
人的資本の情報開示を行う3つのステップ
人的資本の情報開示を行うためのステップについて解説します。
人的資本の情報開示は、ただデータを提示すればよいというものではありません。それを開示したうえでどのように経営に活かし、企業としての価値を高めていくのかという点が重要です。
現状のデータを把握する
人的資本の情報開示を行うための1つ目のステップは、現状のデータの把握です。
現状を正確に把握するためには、必要となるデータを取得できる環境を整えることが重要です。そのような環境を整えるうえではITツールが役立ちます。労働状況やエンゲージメントなどのデータ取得にはHR系のITツールを導入すると良いでしょう。
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人的資本の情報開示を行うための2つ目のステップは、目標の設定です。人的資本の情報開示は、現状のデータを開示することが目的ではなく、企業価値の向上や発展につなげることが求められます。
そのため、現状を踏まえたうえで、企業の経営方針や人事戦略に沿った人的資本に関わる具体的な目標設定を行う必要があります。
目標達成のための施策を設定・実行する
人的資本の情報開示を行うための3つ目のステップは、目標を達成するための施策の設定と実行です。
目標を設定できたら、現状との差分を埋めるための施策が必要になります。この施策はステークホルダーを納得させるための重要な要素となります。
どれだけ高い目標を掲げても、それを実現する施策がなければ評価は得られません。目標と実績の差分が大きければ、ステークホルダーからの信頼を失ってしまう可能性もあるでしょう。また、決定した施策は定期的にステークホルダーからのフィードバックを受けながら、確実に実行することが求められます。
人的資本の開示への対応は企業価値向上のチャンス
人的資本の開示の義務化に対応することは、ただ情報を開示するだけでなく、企業活動の見直しや従業員の意思統一にもつながります。現状を把握し、経営方針に沿った人的資本の目標を設定することは持続可能な企業経営に欠かせません。最新の情報を追い、適切な対応を心がけましょう。