競争ではなく協調で生産性を上げるキーワード「比較優位」

まだフレックスタイム制を導入する企業がめずらしく、全社員が月〜金曜日、9〜5時までを勤務時間とするのが当たり前だと認識されていたころ、仕事は社内で「競い合う」ものだった印象があります。そして現在、育児・介護などと仕事を両立する人が増えていくなかで、それぞれが抱える事情を考慮し、チームでカバーし合って働くのが徐々に当たり前になってきているのではないでしょうか。

働ける時間や能力に違いがあるメンバー同士が協力し合うことで、全体の生産性を上げるのが理想的ですよね。

今回は、そのヒントになるキーワード、「比較優位」について紹介します。

 

「不得意」は任せて、「得意」なことに専念する

先日みつけた障害者雇用について書かれた記事に、こんなことが書いてありました。

人は誰でも得意なものをもっています。これを見いだし、その力を生かしていく、これが「比較優位」の考え方なのです。

この記事の著者は、障害のある人の「できないこと」ではなく「得意なこと」に着目し、得意なことに特化した業務をマッチングすれば、障害のある人も戦力になれるのだということを伝えていました。

「比較優位」とは一言で言うと、互いに得意なことに専念し、不得意なことはそれが得意な人に任せて「分業する」と、全体の生産性が上がるという考え方。これに基づくと、たとえば会社の中で貢献できる技術をあまりもっていない人でも、自分の中で何か一つでもすぐれたものをみつけてそれに特化すれば、会社に貢献できるのです。

この考え方は障害者雇用に限らず、あらゆる場面でも生かすことができそうです。
では「比較優位」とは、具体的にどんな理論なのでしょうか。

 

「比較優位」の視点で仕事を分業するとは?

「比較優位」とは、経済学者デヴィッド・リカードが唱えた概念。自由貿易において、各貿易国が自国の中で得意とする分野に特化・集中することで、対象国全体の労働生産性が上がり、互いに高い利益を得られるという考え方です。

この理論のポイントは、他者と比較して優位となる「絶対優位」ではなく、相対的に優位であることに着目して考える点です。

では具体的に、「比較優位」でどのように生産性が上がるのか説明します。

AさんとBさんがそれぞれ、資料作成と営業のアポ取りを各4時間(合計8時間)かけて行う場合、Aさんは資料作成16ページと営業アポ2件、Bさんは資料作成24ページと営業アポ12件取れることとします。

 

●資料作成と営業のアポ取りを4時間ずつしてもらう場合
※AさんとBさんの稼働時間はそれぞれ8時間

この場合、Bさんは資料作成と営業のアポ取りの両方において「絶対優位」であるといえます。

 

【機会費用で比べる】
次に「機会費用」(その仕事をすることで犠牲になる仕事)をみると、以下のようになります。

機会費用で比べると、資料作成はAさんがやるほうが(Bさんがやるより)犠牲となる営業アポ件数が少なく、営業のアポ取りはBさんがやるほうが(Aさんがやるより)犠牲となる資料作成のページ数が少ないことがわかります。

このとき、「Aさんは資料作成に比較優位をもつ」「Bさんは営業のアポ取りに比較優位をもつ」といいます。

そこで、比較優位を考慮して、Aさんには8時間ずっと資料作成をしてもらい、Bさんには最初の2時間は資料作成、残りの6時間で営業のアポ取りをしてもらうとします。

すると不思議! 全体の合計数が増えるのです。

 

●比較優位を考慮して分担した場合
Aさんには資料作成だけを8時間、Bさんには資料作成を2時間と営業のアポ取りを6時間してもらう
※AさんとBさんの稼働時間はそれぞれ8時間

“個人プレー”より“チームプレー”で生産性を高める

能力の高い人に仕事をどんどん任せるほうが、全体の生産性向上のためにいいように思われがちですが、その人がいなくなると業務がストップしたり、その人のところで業務が滞って全体の生産性を下げてしまったりすることも考えられます。

また、能力の高い人だって育児・介護などさまざまな事情で、常にバリバリ働けるとは限りませんよね。ですから、チームでカバーし合って業務を進めていくほうが、これからの時代に合っていると思います。

比較優位の視点を取り入れて分業をすることは、個人にとっても企業にとっても、いい結果をもたらすのではないでしょうか。

 

参考

働く人と仕事のマッチングを促す「比較優位」の視点(眞保智子) 『働く広場』No.425、高齢・障害・求職者雇用支援機構.

世界一わかりやすいスティグリッツの経済学 第8回 「比較優位の構造」 (木暮太一) 現代ビジネス、講談社.

『出社が楽しい経済学』吉本佳生・ NHK「出社が楽しい経済学」制作班、日本放送出版協会、2009.

 

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