「無駄」がもたらす有意義なひらめき

週末をダラダラと過ごしてしまった時、「せっかくの貴重な休日を無駄にした…」と後悔した経験はありませんか?

何かにつけて業務効率化や生産性が重視される現代では、とにかく「無駄な時間や物は排除しなければならない」という意識が働きがちです。中には、スケジュールがびっしり埋まっていないと不安という人もいるかもしれません。

しかし、「無駄」は本当に不要なのでしょうか?
一見、無駄に思える時間や物の中にも、実は大切なものがあるのではないでしょうか?
今回は「無駄」が私たちにもたらすものについて考えてみたいと思います。

「断捨離」という業務効率化

古くから“もったいない思想”が根付いている日本人は、ついつい無駄な物を溜め込みがちです。私自身も「いつか使えるかも!」と言っては、おしゃれな紙袋などをうっかり溜め込んでしまいます。

そんな風潮を一掃するかのように、数年前から「断捨離」や「ミニマリズム(ミニマリスト)」というワードが巷で飛び交うようになりました。
その定義の本質についてここでは触れませんが、一般的にはどちらも「無駄な物を捨てて快適な生活を送ること(人)」といった意味合いで捉えられていると思います。

確かに不要な物を捨てれば部屋が綺麗になり、導線がスムーズになることで家事や仕事の効率アップも期待できるでしょう。断捨離やミニマリズムも、まさに生産性向上や業務効率化の一つと言えます。

でも、私はこの言葉を聞くと少しだけ窮屈な気持ちになります。無駄な物を持つことすら許されない、余裕のなさやゆとりのなさを感じるからでしょうか。
あるいは、無駄な物を排除することで、何か別の大切なものまで一緒に捨ててしまっているような気がしてならないのです。

生産性を上げると創造性が下がる

「無駄」と生産性や効率の関係を考える上で、紹介したい言葉があります。
ハーバード・ビジネス・スクールのウィリアム・J・アバナシー教授が提唱した「生産性のジレンマ」という概念です。

生産性のジレンマ(せいさんせいの – 、英語: productivity dilemma)は経営学用語。「生産性の高い工場ほど、新たな製品のアイデアは出にくく、反対に、生産性の低い工場は新たな製品のアイデアが出やすい」という傾向があることである。
(引用:生産性のジレンマ – Wikipedia

工場に勤務したことがなくても、この状況はなんとなく想像がつくかと思います。
下町の工場が何度も試行錯誤を繰り返しながらやがて画期的な製品を開発する…という、数年前に流行った某ドラマを思い出す人もいるかもしれません。

生産性の高い工場、つまり効率を重視して無駄を排除した現場では、新たなアイデアや製品が生まれる余地がないということでしょう。
新たな何かを創造するためにはトライ&エラーが必要不可欠であり、失敗や寄り道という「無駄」を経て初めてゴールにたどり着くことができます。

業務効率化や生産性向上はもちろん重要です。特に金銭的・時間的余裕の少ない現代では、そうせざるを得ない場面も多くあります。
しかし、その一方で「無駄」から生まれる「創造性」が下がってしまうというリスクについても忘れてはなりません。

「ぼーっと」することでひらめきが生まれる

生産性から離れて「創造性」に視点を移してみると、「無駄」の価値観が少しだけ変わってきたのではないでしょうか。

ここで、もう一つ紹介したい言葉があります。
NHKの番組などでも特集されているのでご存知の方もいるかもしれませんが、近年注目されている「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という脳の働きについてです。

「ぼーっと」している時、私たちの脳は決して活動をやめているわけではなく、脳の広い領域が活性化している「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる不思議な状態にあることが分かってきています。このネットワークが、無意識のうちに私たちの脳の中に散らばる「記憶の断片」をつなぎ合わせ、時に思わぬ「ひらめき」を生み出していくのではないか、と今大注目されているのです。
(引用:NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体

このデフォルト・モード・ネットワークという神経回路は、不思議なことに私たちが意識的に思考したり活動したりしている時ではなく、何も考えずにただ「ぼーっと」している時にこそ活性化するというのです。

これは、先ほど紹介した「生産性のジレンマ」にもどこか通じるところがあるように思えます。
予定をカツカツに詰め込んだ生産性の高い時間よりも、むしろぼーっとリラックスしている生産性の低い時間にこそ、良いアイデアが浮かんでくるといった経験は誰しもあるのではないでしょうか。

何かに煮詰まったとき、焦ってあくせくするのではなく、あえて無駄な時間を過ごしてみると新たなひらめきに出会えるかもしれません。

さいごに

生産性向上や業務効率化が声高に叫ばれる今、あらためて「無駄」と向き合ってみる必要がありそうです。
特に今回触れた「創造性」という観点からすると、今まで無駄だと思っていた時間や物が、実はとても有意義なひらめきをもたらしてくれるという可能性もあるでしょう。

無駄なように見えて実は必要なもの、人にとっては無駄でも自分には必要なもの、本当に不要なもの…。
大切なのは、「無駄」を一律に排除するのではなく、自分自身にとって必要なものをきちんと見極めることではないでしょうか。

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