育児や介護などと仕事との両立を迫られる人が増えるなかで、時間と場所に縛られない柔軟な働き方「リモートワーク(テレワーク)」に関心が寄せられています。
企業でリモートワークを導入するに当たり懸念されていることの一つに、コミュニケーションの問題があります。しかし、毎日顔を合わせて時間と空間を共有することは、同僚との円滑なコミュニケーションのために不可欠なのでしょうか?
職種や業種にもよりますが、私は自分の体験から、毎日顔を合わせなくても、よいチームワークを築きながら生産性の高い仕事をすることができると考えています。
そこで、私が実際に経験した「会社員としてのオフィスワーク」と「ボランティア活動でのリモートワーク」を通して感じたことと、リモートワークを実践するうえで大切な「Copresence(コプレゼンス、共存感覚)」という概念について紹介します。
目次
一緒にいるのに、隣の人の状況が分からない
オフィスで仕事をしているとき、「隣の人は今、どんな仕事をしているのだろう?」と思ったことはありませんか?
効率化が求められIT化が進んだ現代、パソコンに向かって黙々と業務を行うワークスタイルはめずらしくありません。毎日顔を合わせ、すぐ側で同じ時間を過ごしていても、お互いのことや置かれている状況をよく知らないオフィスワーカーは多いのではないでしょうか。
私も、かつて勤務していた会社で、同じような状況を経験しました。
同僚と一緒に定期刊行物を制作していたときのことです。その業務では、担当を決めたら各自で進め、制作過程は共有せず、形になってから報告し合っていました。
このやり方でスムーズに進行できることもあれば、「相談したいけど、なんだか切り出しにくい」と思いながらそのまま進めて後悔したり、同僚が抱えていた問題を後で知り「早く話してくれたら協力できたのに」と思ったり。モヤモヤやイライラを感じることがしばしばありました。
きっと同僚も、私と同じように感じていたはずです。
顔を合わせなくても「つながり」を感じられた、ボランティア活動でのリモートワーク
そんなとき、ボランティア活動で知り合った人たちと一緒にイベントを開催することになりました。
企画したメンバーは、1歳児を育てながら働くフリーランスの女性、0歳児を育てる育児休暇中の女性、会社員として働いていた私の3人です。ライフスタイルも住んでいる所もバラバラで、集まることが難しかったため、最初に対面での打ち合わせを1回行ってからは、Facebookのメッセンジャーによるリモートワークで進めることにしました。
深夜にメッセージを送った人がいたら、他の人が早朝や昼間に返信する……といったサイクルで、イベントの詳細、告知方法、当日の設営などについて意見を出し合って進めていきました。途中、チラシ作成でデザイナーが加わってメンバーが増え、メッセンジャーでのやりとりが盛り上がっていきました。
結果、スケジュール通りに進行でき、無事にイベントを成功させることができたのです。
このリモートワークでは、メッセージを送ったり確認・返信したりする時間にズレがあっても、同じ輪の中でバトンを渡し合いながら進めているような感覚がありました。顔を合わせていなくても「同じ方向を目指している」と感じることができたのです。
「つながっている」と感じながら働く、「コプレゼンスワーク」
そこで、私が経験した「会社員としてのオフィスワーク」と「ボランティア活動でのリモートワーク」とでは、何が違うのか考えてみました。
オフィスワークでは、業務に対する考えや想いを同僚と共有しておらず、同僚ではなく目の前にある業務に意識を向けていました。一方、ボランティア活動では、最初の打ち合わせでお互いが素の自分を出しながら意見交換することで、「何を言っても大丈夫」という安心感を得ていました。これにより、「有意義なイベントにしよう」というモチベーションを共有して取り組むことができたのだと思います。
この経験で感じたことを裏づけてくれたのが、『はたらく場所が人をつなぐ』(日経BP社)という本で紹介している「Copresence(コプレゼンス、共存感覚)」という概念。本書は、大手オフィス家具メーカー・株式会社岡村製作所 オフィス研究所が行なった、多様な働き方の人が多様につながりながら働くための環境づくりに関する研究をまとめたものです。
本書では、いつ・どこにいても、チームメンバーがお互いの「つながり」を感じながら(コプレゼンス)、快適に効率よく働くワークスタイルを「Copresence Work(コプレゼンスワーク)」と名づけています。
コプレゼンスワークのポイントは、以下の4つです。
- 相手を“情報”ではなく、仲間として理解する(相手の人間性を知る)
- いつ・どこでも気軽に「チーム意識」でつながる
- メンバーの立場を「わが事」のようにまわりに語る(実務情報だけでなくメンバーの状況も共有する)
- さまざまな経験を分かち合い、仕事を進化させる
大切なのは、何でも話せる安心感とメンバーに対する信頼感
いつ・どこにいても、チームメンバーと「つながっている」と感じながらコプレゼンスワークをするためには、チームメンバーに対する「安心感」と「信頼感」を得ることが大切だと考えます。疑問やアイデアなどを気軽に話せる安心感と、それぞれが責任をもって取り組んでいるという信頼感です。
様々な事情から、リモートワークの導入に踏み切れない企業も少なくないと思います。しかし現在は、時間管理ができるTimeCrowdや、テキストでのやり取りやビデオ会議などができるChatWorkなどのツールを使って、コストをかけずにリモートワークを導入することができます。
ネガティブに考える前に、まずはリモートワークを導入してみるのもよいのではないでしょうか。生じた課題を解決しながら実践するのが、働きやすい環境を整える近道かもしれません。
参考
『はたらく場所が人をつなぐ』株式会社岡村製作所 オフィス研究所 池田晃一、日経BP社、2011.