昨今注目を集める働き方改革。労働力人口が減り続けている日本において、働き方を変えて労働生産性を上げることや、女性や高齢者も活躍できる社会、そして仕事と家庭とを両立できる社会、つまり安心して子育てができる社会を作っていくことの大切さは、働き方改革以前からも指摘され続けてきました。
しかし、日本人の働き方は、戦後長きに渡って培われてきたものなので、いくら政府が働きかけたとしても、その改革は一朝一夕には成し遂げられるものではありませんよね。その国の文化に合ったやり方での改革が必要で、国民の気質と国の政策が合致した時に、プラスの効果が出るのではないかと思います。
私が今住んでいるスウェーデンは、日本では女性の社会進出が進む国として、そして福祉の国として有名ですが、それとともに、スウェーデン人は自他ともに認める運動中毒者です。今回は、スウェーデンの新聞The Local誌で紹介された、運動好きなスウェーデン人に合ったワークライフバランス施策を進める企業の例をご紹介します。
運動が業務上の義務!?
ランチタイムをジムでの運動に費やす人は、ヨーロッパの多くの国では珍しくはないといいます。これも日本人にとっては驚きの事実ですが、更にさらに驚くべきことに、スウェーデンではついに勤務中の運動を義務付ける企業が出てきたそうです。
一般にスウェーデンでは、全体の約70%もの人が定期的に運動をすることを心掛けているといわれています。例えば、スポーツ衣類を扱うビョルン・ボルグ(Björn Borg) 社のストックホルムにある本社では、毎週金曜日になると社員はデスクを離れ、近所のジムに運動をしに行きます。スウェーデンテニス界の伝説とも言われる人物が立ち上げたこの会社では、2年以上前に始まったこの「毎週の運動」という義務から逃れる道はないとのこと。
社員によれば、「もし運動したくない、会社の文化に参加したくない、というのであれば、その人には会社を去ってもらうしかない」というのです。今のところ、この文化が嫌で退社した人はいないそうですが。この方針の主な目的は、社員同士に友情を育ませつつ、生産性と収益性をも上げることだといいます。
2014年にストックホルム大学が発表した研究で、勤務日に運動をすることは、雇用者にとっても被雇用者にとってもプラスの効果があるとの結果が出ました。
この研究によれば、被雇用者はより健康的になり、かつ仕事に対する集中力が高まり、そして体調不良による欠勤者の割合が22パーセントも下がったとのことです。冬の厳しい寒さなどが原因で、欠勤率がヨーロッパの平均値の倍にも上るスウェーデンでは、これは画期的なことなのでしょう。
そして毎週金曜日恒例の運動に励むビョルン・ボルグ社の社員たちのほとんどは、この習慣を楽しんでいるようです。
外での運動を楽しむ、スウェーデン人のライフスタイル
スウェーデン人は、天候の良し悪しに関わらず、外で身体を動かすことを好む人々としてよく知られています。きのこや木の実を摘むため、もしくは運動を楽しむために、長い距離、森の中を歩くことを好むのです。
スウェーデン人は、たくさん運動をすれば、そして自然のなかでたくさんの時間を過ごせば、より健康的で、強く、そしてしあわせになることができると考えているそうです。この基本的な考え方が、スウェーデン人が自然に囲まれた環境での運動に励む理由のひとつなんだとか。また、よく運動をして健康でいることは、雇用者に対する義務でもあると考えられています。
ジムでは誰もが平等
1980年以降、スウェーデンの企業は被雇用者に運動に励むための助成金を与えています。その額は年間500€で、雇用主にとっては税金から控除できる項目となっています。そして、先述のビョルン・ボルグ 社のように、運動のための時間を勤務時間中に設ける会社もある、というわけです。
また、運動することで社員がより健康的でしあわせになるだけでなく、社内の交友関係にもプラスの効果があるとビョルン・ボルグ 社の社員は言います。なぜならば、ジムに行けば誰もが平等で、会社での責務や役職に関係なく、対等な立場で交流することができるからなんだとか。
スウェーデンの経済研究者カール・ケーデルストレームですらも、この運動を業務上の義務とする試みは極端な例だと言いますが、運動こそが人を健康に、そしてしあわせにすると考えるスウェーデン人の気質には合っているのかもしれませんね。
おわりに
今回は、スウェーデンでのとある企業で採用された働き方改革の一例を紹介しました。この例をこのまま日本で採用できるとも限りませんが、日本でも、「健康経営」と掲げ、合宿型でメタボリックシンドロームの疑いありとされた社員に運動の仕方や生活習慣の見直しを指導する企業があるようです。
日本でも、これからさまざまな企業が多様な取り組みを進めていくことと思います。就職先を選ぶ際、勤務形態や給与だけでなく、健康管理への考え方なども含めて会社を選ぶときが来るのかもしれません。